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ウィルコムのメールはなぜ遅い

2008/05/09 21:03

さて、なぜpdxのメールは遅いのか、というご質問をいただきました。ということで、今回は技術的にできるだけ正しく説明してみます。

ということで、先に結論を書いてしまいますと、pdxメールの送受信が遅いのは、「標準プロトコルを使っているから」というのが唯一にして最大の原因です。なぜ標準プロトコルを使うと遅くなるのか、について、以下に解説します。

pdxメールでは、まじめにCLUB-AIR-EDGE接続を行っています。これは、通常のPPPダイヤルアップ接続です。このため、PPPのネゴシエーション、PAPによる認証、IPCPによるネットワーク設定、という手順が必要になります。

また、pdxメールは標準のPOP3とSMTPプロトコルを使っています。加えて、送信時は、POP before SMTPという方法で認証を行っているため、POP3とSMTP、両方のプロトコルが走ることになります。細かい説明を抜きにして、そのプロトコルのシーケンスを並べると、以下のようになります。

めんどいので個別の説明はしませんが、標準プロトコルはいろんな場合に対応できるようにいろんな情報をやりとりすることになっているため、このように、たくさんのデータのやりとりが必要になってしまいます。

そして、この「データの往復」というのが、実は、一番やっかいなのです。というのが、データを送って返ってくるのを待つ、というのは、ネットワーク遅延分の待ち時間が常に発生します。相手の応答を待たないと次のデータを送れないからです。このネットワーク遅延の値は、ウィルコムのパケット網の場合、大体往復200msecほど(pingテストと同じ値)。

そして、上の図の往復の数を数えると、おおよそ20往復ほどしているのがわかると思います。つまり、「待ち時間」だけで、200msec x 20、4000msec、4秒もかかっていることになります。これに、無線リンクの確立、PPPリンクの確立などの時間が1〜2秒、加えて実際の伝送時間もありますし、端末やサーバでの処理時間の遅延もありますから、ほとんど中身が空っぽのメールでも5〜6秒はかかってしまう、ということになります。無線タイミングとの同期がとりにくいW-SIM端末ならさらにそのタイミングずれによる無駄時間が生じて、平気で倍くらいの時間がかかることになるでしょう。

というのが、pdxメールが遅い理由だったりします。ちなみに、送信がやたらと早いドコモのiモードメールはどうなっているかと言いますと。

ハイこの通り、たった5往復です。FOMAのパケット遅延がちょうどウィルコムと同じくらいなので、200msecとして考えても、1000msec、1秒。iモードの場合はややこしい相手確認とか認証とかすっ飛ばしますので、サーバ遅延もありません。パケット起動も含めてほんとうに2秒ほどで送信完了します。ただし、全くの独自プロトコル。なので、端末のソフトもサーバも全くの独自品。iモード専用。全く応用効きません。でも速い。

ということで、ウィルコムとしては、応用も効くしソフトの調達も簡単な標準プロトコルを採用し、そのツケとして、ひどい遅さに悩まされている、と言えます。標準プロトコルを使う以上これはどうしようもないことです。H”LINKの頃はほとんど独自プロトコルで、PPPもPAPもIPCPもPOPもSMTPも使わない、ほんとうの「直送」だったのでえらく速かったのですが、残念ながら今ではそれが使えるのはエッジeメール対応機種だけとなりました。nicoのメールがやたらと速いという話もよく聞きますよね。

ということで、pdxメールが遅いのは(繰り返しになりますが)標準プロトコルを使っているため、です。これを速くするには、ネットワークの遅延をなくすという方法しか無いわけですが、やっぱり全国レベルの移動パケット網で100msecの桁を突破するのはかなり大変です。唯一やれるとするなら、メールだけは回線交換に先祖返りする、とか。ただし中継網はIPを利用。IPと回線交換は実に相性が悪い(苦笑)ので簡単にはいかないでしょうが、音声でできているのと同じレベルの回線交換でも十分速くなると思います。まぁ、端末もネットワークも大改造になるので、実現するとは思いませんけど。

あとは、POP before SMTPをやめる、っていう手もありますね。どうせメールのアクセスポイントにつながるのはウィルコム端末だけなんですから、認証をやめちゃえば良いと思います。これで1秒は速くなります。ついでに、送信する前(メールアプリの送信ウィンドウを開いた瞬間とか)にパケット接続しちゃってDNSの名前解決も終わらせて待機すれば、後はSMTPの6〜7往復だけ。空っぽのメールなら1秒あまりで送信完了します。メールに力を入れる端末とかってなら、こう言うところに力を入れて欲しいですね。デコメなんてどーでもいいから。

ということで、どうしてpdxメールは遅いのか、という一言でした。




ホームアンテナをもっと借りやすくしよう

2008/05/05 21:21

レピータを、ねぇ。いや、ホームアンテナのことなんですが。このホームアンテナを、ねぇ、もう少し気軽に借りられるようにして欲しいというか何というか。

いや、月額300円って、十分良心的なお値段だとは思うんですよ。一説ではあのホームアンテナは一台5万円はするらしいので(そりゃ中身は基地局ですから)、300円のレンタル料では元を取るのに14年かかりますし、実は電波利用料も取られている(月200円くらい)ので、その埋め合わせも考えれば40年も利用しないと元が取れない、という代物。耐用年数が10年だとすると、1台毎に3万8千円の赤字です。実際はレンタルされていない期間もあるでしょうから、赤字額はさらに増えます。つまり、ほとんどウィルコムが丸かぶり。

というようなものなので、安易に料金を安くしろとは言いにくいですよね。いや、そりゃソフトバンクなんぞはタダで配ってますけど、ソフトバンクの場合は、設置日から2年以内に携帯を解約すると違約金2万円、なんて言う縛りをきっちり入れた上でのタダ配りなので、実質、契約期間が延びる分の収入にはなっているわけです。だったらウィルコムもホームアンテナは2年縛りにしちゃえばいいんですが、まぁなんつーか、今更、って感じではあります。こういう狡いところはソフトバンクをしっかり見習っても良いと思うんですけどね。

ということで「値下げしろ」という議論はとりあえず今回は無しで。その上で、気軽に借りられるように、という話なんですが、何と言っても、「販売店に配備して欲しい」ということです。例えば、直営のウィルコムプラザには配備してある(らしい)のですが、それ以外の一般販売店には置いていない。だから、最初からホームアンテナ併用を前提で購入する人なんてのがいた場合、販売店で端末を購入して家に帰ってからサポセンに電話して申し込み、なんて言う面倒なことをやらなきゃならない。そのサポセンもさっぱりつながらないことが多い。借りるのめんどいからやーめた→家の中じゃ電波弱くてダメじゃん→解約。これじゃぁ、宝の持ち腐れ。

だから、一般の販売店(特に量販店)にもホームアンテナを配備して、契約した人には「最初2ヶ月は無料なので試してみてください」とデフォルトで持ち帰ってもらう、くらいのことをしてもいいんじゃないかなぁ、と思うんですよ。家に帰ってさぁ使おうと思ったら電波が悪い、って時に、ホームアンテナをもらってればその場で解決。しかし、そこでもし店頭で説明も貸し出しも無ければ、「電波が悪ければホームアンテナを使えばよい」という発想に行き着く人はごく少数。そもそもホームアンテナの存在を知らない場合が多いはずです。ですから、電波が悪ければ、すぐに、だまされた、解約してやる、となるのが一般的な反応です。これが、ウィルコムの解約率が高い原因の一つであるのは疑いようがありません。

もちろんこれだと、加入者一人につきホームアンテナ1台、つまり、5万円の費用が余計にかかる計算になります。ARPU3000円で5万円分といえば、17ヶ月。従来より平均17ヶ月余計に使ってくれる見込みが無ければ、この施策は赤字です。でもこれについては、現状の「ホームアンテナを使っている人の平均契約期間」と「使っていない人の平均契約期間」を比べれば良いだけの話ですよね。個人的には、多分17ヶ月以上の差はあると思うんですけど。

ついでに裏技。ホームアンテナは全部レンタル、つまり、ウィルコムの持ち物。その資産額を裏付けとしてホームアンテナ資産を流動化しちゃって資金調達、なんてこともできますよ(ソフトバンクぽい;笑)。ついでにレンタル料も入るし、解約率も下がるし、で、店舗配備&デフォルト貸付、っていう戦略、長い目で見るといろいろと御利益がある気がします。ん、これって、Yahoo!BBのモデムタダ配りと同じスキームなのか。ぎゃふん。




次世代PHSの端末大予想?

2008/05/02 21:13

次世代PHS端末はどんなものになるでしょうか、予想してください、と言うようなメールを何件かいただきました。とりあえず、まだ全く想像の材料が無い時点で、「どのようなものにすべきか」という視点も多少入れつつ、予想してみたいと思います。

まず一番重要なポイントは、やはり「W-SIM型にできるのかどうか」という点です。これに関しては、デバイス(チップ)の発達は最近著しく、小型で省電力で計算パワーもたっぷり、なんて言うプロセッサも数多くありますし、そのような技術を応用すれば、作れないことは無いかな、と言う気がします。ただ、問題は、「送信側」ですね。次世代PHSの帯域は10MHzと広く、その中に200以上のサブキャリアがあります。そのそれぞれに高精度の変調をかける、となると、RF関係はかなり大規模にならざるを得ない可能性があります。消費電力も増え、これらが大型化し、W-SIMの大きさには収まらないかも知れません。

そこで、例えば、送信側(上り)だけは、使うサブチャンネルを絞る、と言う方法で、この問題を解決できるかも知れません。一つのサブチャンネルの大きさは900kHz、現行のPHSの3倍程度ですから、さほど大きすぎるとは言えません。このサブチャンネルの使用数を、上りについては2個とか4個とかに絞ることで、送信機の小型化は図れるかも知れません。まぁこの辺は単に私のアイデアですし、ひょっとするとフル帯域でもあの大きさに収まるようなデバイスがあるかも知れないので、その辺に期待したいところ。ただいずれにせよ、W-SIMタイプの登場は、サービス開始後2〜3年はかかる、と見ています。受信性能があまりよろしくないので、エリアがかなり安定している必要もありますし、ある程度動作実績が無いと専用チップの開発には取りかかれないと考えられるからです。

と言うことで、来年初っぱなに出てくる端末は、ある程度汎用のチップ(WiMAX向けなど)を使い回した、比較的大きな端末になると思われます。大きさで言えば、PCカード型か、USB接続の箱型になると思われます。個人的には、最近主流から外れつつあるPCカード型よりはUSB接続型の方が良いかも、と思ったりします。USBケーブル接続でマウスくらいの大きさの端末、と言う感じでしょうか。多分、ですが、イーモバイルのHWシリーズより一回り大きいくらいになるんじゃないかと思います。機動性は低いですが、初っぱなはモバイル向けと言うより、固定ブロードバンド市場の一部をかすめ取るような商売を狙ってるんじゃないかと思うので(エリア狭いし)。ただ、USB型だと、消費電流の問題もあります。なんつっても、OFDM系は電力ドカ食い。出力10mWのOFDM無線LAN(802.11g)でもUSBの供給電力(5V500mA=2500mW)をいっぱいに使っていたりするくらいですから、出力200mWの次世代PHSだと、余裕でこの限界を突破する可能性が高いです。USB接続かつACアダプタ接続なんて言うかっこわるいものになるかも知れません。

また、当初よりデュアルを想定している、と言う幹部の発言もありました。これに関しては、同じ端末の中に現行PHS端末相当の基盤をもう一枚入れるのか、あるいはいっそW-SIMスロットを搭載して合体できるようにしちゃうのか、と言うのがあり得る線です。最大速度まで考えれば、8xでW-OAM typeG対応もできる現行PHSカードの基盤だけを丸ごと入れちゃうのが良いのでしょうが、開発にかかるコストと時間を考えれば、サービス開始まで時間がありませんから、W-SIMスロット対応で最初はお茶を濁す可能性が高いと言えます。何と言っても、W-SIMを採用すればテスト工数が極端に減らせると言う利点がありますし。

あと気になるのは、ハンドセット型端末。例えばauのWIN端末みたいに、こっそりEV-DO対応しちゃった音声端末、みたいな感じで、こっそり次世代PHS対応しちゃった音声端末、みたいなのが欲しいところですね。ただこれに関しても、上で書いた「専用チップ」の開発を待たないといけない気がします。あるいはさらに進めてワンチップで現行・次世代両方に対応したチップ、等です。それまでは、やはりどうしても汎用部品をうまく組み合わせて、と言う形になるでしょうから、大きなスペースも必要ですし、ひょっとすると、大きくて不格好な端末、例えば、初代ZERO3くらいの巨大な端末が出てくるかも知れませんが、まぁ、許してあげてください(笑)。

あと、何かD4の発表で「次世代にも対応」なんてことを言ったとか言わないとか言われていますが、私は、あり得ないと思っています。というのが、W-SIMのインターフェース仕様。W-SIMのインターフェースはUARTシリアル。これは、(使うUARTチップにもよりますが)最大460kbpsが限界。とてもじゃないですが、最大20Mbpsという次世代PHSに対応できるものではありません。かといって、D4のW-SIMインターフェースがUART-USBデュアルになっているとも思えません(誰かがD4を分解してUARTチップを調べてくれれば片がつくと思いますが;笑)。まぁそう言うわけで、D4がそのまま次世代に対応する、というよりは、D4と共通のプラットフォームでハード的に次世代モジュールを追加したものが別途出てくる、と考えるのが一番自然です。少なくとも、次世代も使えるから、という理由でD4を買うのはやめた方が良いと思います(結局買い直すハメになりますよ)。

と言う感じで次世代PHSの端末を予想してみたわけですが、なんつっても、サービス開始(?)まで残り1年ですからねぇ。普通、まともな端末を作ろうと思ったら1年半から2年、また、チップセットの開発も2年はかかるわけで、それを1年そこそこでやるとなると、これは相当な突貫工事になるわけで、あまりカッコイイ端末は期待しないで待つのが吉、と言うのが個人的な意見です。と言ったところで本日はこれにて。




日本通信のIP電話サービスについて考える

2008/04/30 21:12

日本通信がドコモ網を使ったIP電話という記事。ちょっと前に、日本通信がドコモ網の貸し出しを巡って、料金設定権と帯域課金形態を認めるように裁定が下った話もあり、それをもって実現の見通しがついた、と見えます。

ただ、正直に言うと、実現性はまだかなり微妙です。というのが、例の裁定では帯域課金形態については「日本通信の言い分は認めるけど実現に当たってはよく話し合いなさい」という所にとどまっているからです。IP電話はこの帯域課金ができないと実現できません。また、帯域単価が高額にとどまってもやはり安い料金でのIP電話は実現不可能です。

帯域課金とは、(日本では唯一)ウィルコムが行っている、MVNO向けのネットワーク貸し出しの形態。○Mbpsを月○円で貸します、という形です。これに対して、回線数課金+時間課金orデータ量課金という形態が、他のMVNOでは一般的。この場合、IP電話をパケットで流せば、利用量が増えれば課金額も増える、という単純構造になります。例えば低音質の10kbpsのIP電話でデータ量単価が市価の10分の1程度だとしても、課金額は1分10円にもなります。これでは競争力のある価格でのIP電話は実現できません。一方、帯域課金なら、10kbpsを丸一ヶ月流しっぱなしでも定額、ということができます。さらに、同時通話率が1%なら、買った帯域の100倍のユーザを収容できます。つまり、定額料金の100分の1の値段の「月額定額」で提供できることになるわけです。これは、IP電話ビジネスを行う上で必須とも言える条件です。

とは言え、例えば、ドコモが「1Mbpsを月1億円で貸します」と言うと、10kbpsの通話一本当たり100万円。同時通話率1%でも一ユーザ当たり月1万円。これでは商売になりません。やはり最悪でもこの10分の1程度の単価となることが必要です。ということで、実現の鍵は、今後の日本通信とドコモの交渉にかかっていると言えます(ニュースの出た時期から考えてすでに何か合意したのかも知れませんが)。

ちなみに、データ通信の定額制は、IP電話ほど深刻じゃないんですよね。というのが、データ通信ではトラフィックがバースト的にしか発生しないから。通信帯域を均してしまえば、接続帯域はそれほど大きい必要はないですし、何より、データに関しては別に「詰まってもかまわない」というベストエフォート。電話とは要求されるものが違うわけです。きっちり全員に最大速度を保証する必要がない分、多少高額な帯域単価でも安い価格で提供可能なんですよね。

ということで、コスト的な問題はこんな感じですが、技術的な問題があります。というか、品質の問題。ドコモのパケット網は、最低でも100msec以上の遅延があります。また、遅延の揺らぎも結構大きく、これを吸収するジッタバッファもかなり大きめにとらなければなりません。パケット網遅延150msec、ジッタバッファ250msecで合計400msec程度の音声遅延が常に発生する、というくらいに考えておく必要があります。

400msecというと、これはかなりの遅延です。大体、電話では300msecを超える遅延があるとはっきりと知覚できる不快な遅延と感じるそうですので、もし上記のような遅延が発生するなら、はっきりと「低品質な電話」と認識される可能性があります。ともすれば、050番号の付与を拒まれるレベルにさえなりかねません。これでは、サービスとして成り立ちません。

一つの解は、ジッタバッファを極限まで小さくすること。遅延揺らぎは吸収できなくなりますが、遅延自体は無くなります。その代わり、遅れたパケットは全て「パケットロス」となり、音声品質が悪くなります(ノイズや途切れ)。

帯域課金を提供する条件として「HSDPAを使う」ことを義務づけている可能性もあり、この場合、他の通信に追い出されたりより条件の良いHSDPA通信に帯域をとられたりすることで、遅延が大きくなったり帯域が狭くなったりすることがあります。このとき、ジッタバッファが小さいと遅れてきたパケットは全てロストし、ブツブツと途切れるひどい電話になります。HSDPAはチャンネルの太さや遅延量などが一定しないことと引き替えに大容量を実現するものですので、HSDPAを使う限りはこの可能性は非常に高いと言えます。

ということで、「大きな遅延」を許容するか、さもなくば「途切れやノイズ」といった現象が、遅かれ早かれ起こることは確実と、私は見ています。5000万もの加入者とベストエフォート帯域をシェアしようというのですから、これは当然でしょうね。かといって、パケット網の容量についてはドコモより逼迫しているらしいauやソフトバンクと組むなどできない相談でしょう。日本通信としては、上記の品質低下が地域的時間的に限定的にしか起こらないことを期待して低遅延サービスとすることを決断するか否や、ということになりそうです。

ということで、実際にサービスが始まってみないと何とも言えませんが、なんつーか、株価がストップ高になるほどのサービスじゃ無いとは思うんですけどね(苦笑)。コスト構造は日本通信に不利だし品質も妥協が必要。そも050IP電話が全然流行ってないのでIP電話というサービスの需要自体が微妙。各社音声定額を始めた今となっては「モバイルで定額」という市場さえすでに競合だらけ。唯一可能性があるなら、例えばOCNやYahooBB等の大規模IP電話基盤を利用しての固定IP電話との定額という需要でしょうか。おそらく、ここしか商機は無いと思います。ってことで詳細発表を待つ、というステータスにしておいて、本日はこれにて。




Skypeの固定宛定額サービス

2008/04/28 21:11

Skypeが固定電話宛通話し放題プランですって。ちょっとびっくり。その価格も月額695円と言うんですから、二度びっくりです。

ということで、簡単ながら、なぜそれが可能なのか、可能だとすれば、なぜウィルコムはやらないのか、という点について考察してみます。

ここで例によってアクセスチャージ。なぜ今まで誰も固定電話宛の無料通話ということをやらなかったかというと、そこにはアクセスチャージがあるからです。アクセスチャージというのは、NTTの網利用料。回線交換網はどうしても時間当たりのコストがかかってしまうため、それを補填する目的でNTTが発信事業者に請求するものです。つまり、発信時業者側から見れば「一次原価の一部」に当たります。

この額は、NTTの契約約款などを見ればわかるのですが、非常にややこしい上、接続形態によって大きく料金が上下しますので、ここでは簡単にするために、その額を0.03円/秒、ということで考えてみます。これは、大体、各県に一カ所相互接続ポイントを設ける、という、豪華プランです。もう少し相互接続ポイントを減らすと県間交換網の利用も必要になってくるので、もう少し料金は高くなります。また、1通話毎のチャージもあるのですが、ここではそれは考えません。

これに対して、固定電話宛話し放題の料金は695円、税抜きで約660円。これと、0.03円/秒で計算すると、月に約6時間通話すると、アクセスチャージが基本料を超えてしまいます。

実際には、販売コストもありますしIP網の維持コストも必要です。通話量が増えれば各県配備のゲートウェイへの通信が増えるため、ゲートウェイからのインターネット接続回線の増速が必要ですから、網の維持コストは急激に上昇します。また、通話保持時間が長くなればゲートウェイでの同時通話回線数も増えますから、ゲートウェイ→NTT東西の接続回線容量も増強しなければなりません。加えて、固定電話宛と言っても、NTT東西だけではありません。KDDIもSBTもJCOMも0AB-J番号を持っていて、番号ポータビリティも行われています。なので、今日本では0AB-J番号への通話はまずNTTにつなぎ、NTTがポータビリティ先を探してルーチングする、という形になっています。すると、もしかけた先がNTT以外だった場合はNTT東西だけでなく各事業者のアクセスチャージも上乗せされます。等々の事情があることを考えると、一人当たりの月の通話時間が6時間にもなれば、完全に赤字でしょう。

これでどうして商売が成り立つのか。これは私感ですが、おそらく当初は商売として成り立たないと思われます。ウィルコムのPHS同士という限定通話無料プランでさえ、当初は10時間とか15時間とかの通話に使われたくらいです。いくらSkypeとは言え、相手が固定電話OKとなれば、固定電話宛に長電話する目的のためだけに無線LANハンドセットを用意したりして電話しまくるようなユーザが主になるでしょう。こういうユーザだけを相手にしていては完全に赤字、しかも大赤字です。喜ぶのはアクセスチャージを稼げる着信事業者だけ。

しかし、これはおそらく、一種の「撒き餌」なのかなぁ、と思うわけです。これが口コミで広がり、単に固定電話宛の通話料をちょっと減らしたいなぁ、と思っている程度の人にも広がれば、徐々に収支が改善してきます。最初は赤字覚悟で、徐々に低利用層に利用者を広げて最終黒字を目指す、というのは、Yahoo!BBやSBMでおなじみのソフトバンク的商法といえます。

また、これに加えて、もう一つ、このビジネスがうまくいくための弾丸があります。それが、海外向け。例えば中国などのアクセスチャージが格安の国宛にこのサービスを使うような人が徐々に増えてくることも期待していると考えられます。例えば、中国に長期出張の家族宛ホットラインとして、です。こういう形なら、もっと多くの通話でも十分利益が出る構造になります。中国のアクセスチャージの絶対額はわかりませんが、通話料などから類推するにおよそ日本の3分の1。つまり、3倍の時間、18時間の通話でようやく原価割れ、ということになります。中国などを相手に設定する人が増えれば、それだけ原価のマージンが増える、ということです。

ということで、コスト構造を単純に見ればかなり怪しい商売ですが、月の通話時間が2時間に満たないくらいの使い方なら何とか商売になるかも知れない、という感じ。まぁ、これまで地味な値上げを続けてきたSkypeが一転してこのような安売りをすること自体が怪しいと言ってしまえば怪しいのですが(笑)、いずれにせよ固定電話を脅かすようなサービスではない(むしろ固定電話の通話機会を増やす)ので、静観していても問題はないでしょう。少なくとも、何か他のサービスを道連れに転ぶことはなさそうです。

もちろん、固定電話宛の通話が多い人なら、このサービスを利用することを検討しても良いのですが、注意点が二つ。一つは、あくまで「インターネット電話」ということ。IP電話でさえないんです。品質に期待してはいけませんし接続性も保証無し、電話番号もありません。番号を割り当てるサービスもありますが、一般の人にはかなり敷居が高いです。そしてもう一つ、英語の読み書きができない人は使っちゃダメ。Skypeのホームページの日本語ページはほとんど全てが英語を直訳しただけで、意味が通らないところが多いです。また、そもそも日本語化されるのが遅い情報や日本語化されない情報(特にヘルプ/FAQは全滅)がかなりあるため(値上げのニュースが日本語化されなかったため請求書を見て値上げに気づいた、なんて人が続出したようです)、英語のページをまめに読んでサービスの変更などをチェックできることが必須です。これだけのハードルや危険のあるSkypeにお金を払う、ということは、少なくとも私にはできないですね。

最後に、話はころっと変わって、Skypeができたんだから、ウィルコムも同程度の価格で固定電話宛通話無料サービスができるんじゃないか、という話。まずひとつめとして、上記の通り、コスト構造はかなり怪しげです。全くの素のインターネット電話→固定電話定額サービスとしてみても、一次原価レベルで採算が取れるかどうかはわかりません。それに加えて、ウィルコムは中継網にインターネットではなく独自IP網を使っています。Skypeに比べてこの中継網分余計にコストがかかることになります。もしSkypeがうまくいってもウィルコムはうまくいかない、という可能性は十分にあるということです。

少なくともリスク管理の観点からは、従量のアクセスチャージがかかる網への定額接続はすべきではない、というのが私の意見です。極めてハイリスクな割にはリターンはほとんどありません。きっとSkype側も、日本の国内通話用として使われることは主要な使い方とはしないでしょう。あくまで国際電話向け。アクセスチャージの低い国向けの利用で日本などアクセスチャージの比較的高い国の赤字を補うようなビジネスとなっているのではないでしょうか。そう言う意味では、ウィルコムは単純に同じ料金でマネすることはできないと思います。

というわけで、まぁ、推移はもう少し見守りたいところですね。うがった見方をすれば、eBayのSkype事業が継続的に成長していると株主に見せるため、赤字でも増収を、という施策なのかも知れません。とりあえず解約は自由らしいので、興味のある方は使ってみるのもよいかも知れないですね。といったところで本日はこれにて。