カテゴリ ‘技術解説’ の過去ログ
2010/09/06
2.4GHzと言う帯域について私は事につけ「汚い」だの「使えない」だのと言っている事について、が、今日のネタ。
そもそも2.4GHz帯ってのは何でしょうと言う話は、あまりにおさらいになるので省略したい心をぐっと抑えておさらいしてみますと、ITUだかなんだかで「ISMバンド」として指定されたものの一つです。これ以外にもISMの指定を受けたバンドはたくさんありますが、2.4GHzはその中でも圧倒的に有名な周波数バンド。
ISMとは、産業(Industry)、学術(Science)、医療(Medical)の頭文字をとったものです。もともとはこの三つの用途に使うことを前提として、これらの用途の周波数により無線帯域が汚れまくりますよ、と言うことを宣言したもの。
と言うと、これらの用途って重要性が高そうで、汚れまくりじゃダメじゃん、と思われそうですが、これらの用途には注釈付きで「通信ではない利用」を前提としています。高周波で精密機器の加工・洗浄をしたり高周波ビームで原子配置の特性の研究をしたり大電力電磁波で患部を焼いたり、と言うような用途です。こういう用途のためにこの周波数を使っても良い、と言うところがISMバンドのスタートです。
このような用途に使うバンドなので、基本的には「他の通信などの用途には使えませんよ」としてもいいのですが、使う用途が用途なので、本人たちは別に他からの干渉があっても大して困りません。むしろ困るのは、他の通信目的にこのバンドを使う人たち。ISMの出す制御されていない干渉波は通信に甚大な影響を与ええます。
それでも、あまっている帯域を通信に使わないのはもったいない。そこで、「ひょっとするとISMな人たちから尋常ならざる影響を受けるかも知れないけど文句を言う権利はないからね!(ツンデレ風)」と言う条件を飲んだ人だけは通信に使っても良い、と言うことにしました。ついでに、お互いがお互いに干渉を与えないと言う大前提も大幅に緩和し、要するに「何でもあり」の帯域としたのです。
なので、ISMバンドはもともと、ISM機器の発射する漏れ電波で汚れまくり、と言うのが前提です。さらに、非ISMな機器も配慮なしに電波を出しまくれるので汚れに拍車をかけるというのがISMバンドです。泥で汚れた畳に上がるのに靴を脱ぐ人はいないわけで、汚れてるから土足で上がりそれがさらに畳を汚す、と言う理屈がISMバンドが何でもありとなった大元なんですね。
そんなわけで、2.4GHzもそんなISMバンドの一つ、と言うことで、「いつ他人にジャマされて途絶するかわからないよ」というこの2.4GHz帯を企業の業務目的に使うなんてのははっきり言って危機管理意識ゼロ(漏洩視点でも)としか言いようがありません。重要業務が中断して損害を被る可能性が多分にあるわけです。社内のネットワークに無線LANを使った企業も結構あると思いますが、私の知る限り、こういった事情に明るい大手通信事業者(NTT系、KDDI系など)では無線LANを業務ネットワーク接続には使っていません。
とはいえ、こういった事情に関するリテラシの低い通信技術雑誌が無線LANの構内利用を煽りまくった結果多くの企業が無線LANを入れ、その運用の難しさと品質の悪さに四苦八苦しているのは前にも書いたとおり。そこに来て、ソフトバンクを筆頭とする「ただ乗り事業者」たちが無線LANアクセスポイントのばら撒きを始めてしまったのですから手に負えません。
一般的な公衆無線LANや構内無線LANなどではまだ深刻な問題は起こっていませんが(多分)、私はある集まりに参加するとき必ずこの問題に遭遇しています。まさに「無線LANストーム」とでも呼ぶような状況で、複数の無線LAN APと莫大な数のクライアントがすさまじい数の無線LANフレームを空中にばら撒き、あらゆるAPが全く利用不能となるような状況です。あらゆるタイミングで多数のクライアントが通信をしようと無線フレームを送信し重なり合った非常に強い干渉が全く途切れず無線通信路は1ビットも運べなくなりごく少数を除いて誰一人無線LANを使えていないという信じられないような状況です。
これはいくらなんでも極端な例ですが、とはいえ、何も考えずにAPをばら撒くといずれたどり着くのはこの領域です。2.4GHzは「なんでもあり」だからこそ、慎重に計画して使わなければならない帯域なのですよ、と言うことを主張しつつ、本日はこれにて。
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2010/07/30
さてまた質問メールから。「TD-LTEの資料などでビームフォーミングが良く触れられているけど、できるの?」と言うご質問。
端的に答えますと。LTEではビームフォーミングが可能です。TDDに限らず。
さて、ビームフォーミングとはなんぞや、と言うところに一旦話を戻します。ビームフォーミングとは、ビーム(梁)をフォーム(形作る)ということです。まぁ、ビームは原義の「梁」よりは、SFアニメなどで出てくる「ビーム砲」のほうを思い浮かべたほうが良いでしょうね。「電波をビーム状に発射する」技術です。
電波を細く絞って飛ばすことにより特定の端末だけを狙い撃ちにする、と言うのがビームフォーミングの目的で、と言うことは要するに「空間多重(SDMA)」をする為の技術、と言ってしまえます。
しかし、実際には、端末があっち方向にいるからあっち方向に細いビームを撃てー、みたいなものではありません。何もない自由空間ならともかく、現実には地形や建物(究極的には基地局自身躯体による伝播への影響)があるので、あっち方向にビームを作る、みたいなことはできません。
ではどうするのか。結局やることは、「端末のアンテナがある場所でさまざまな経路を通った電波がちょうど強めあい、それ以外の場所では打ち消しあうように電波の出し方を調整する」と言うことです。理想的には下図のように、端末のアンテナがある一点でのみ電波が強めあい、それ以外ではすべて打ち消しあうようにすること。

X=基地局、端末マーク=端末、緑=電波強度
しかし、実際には、下図のように、それ以外の場所にも強めあう場所が出てきてまだら状になるのが普通です。このまだら状のポイントでも電波は強め合ってしまうので、完全な空間多重はできません。また、「ビーム状」になるのではなく、周囲にある程度散らばってしまうので、「方向で完全に分離する」と言うこともできません。できるのは「端末のある場所で強めあい、それ以外の場所は『なるべく』打ち消しあうようにする」です。

これをやるのに一番良いのは、端末から発射した電波をそれぞれのアンテナで観測すること。端末からの受信情報を丸ごと符号をひっくり返して送信側に持っていけば、ビームフォーミングの出来上がり。端末のアンテナから発射された電波と言うのは、つまりは、それをひっくり返せば端末のアンテナの位置で完全に重なり合うということを意味するからです。各地の地震計の波形から逆算して震源地を特定するようなイメージ。
これができる条件が、「TDDであること」だったりします。むしろ、TDDであれば、こういうことが容易にできる、だからこそ、ウィルコムがPHSと言うシンプルな方式で10年も前に空間多重(の要素技術であるアダプティブアレイアンテナ)を実現できていたわけです。
では、LTEではどうするのか。TD-LTEなら当然できることは想像できますが、問題は、FDDのLTE。なぜFDDでこれが難しいのか、と言うと、上で書いたような端末の発射電波を観測するだけでお手軽ビームフォーミング、と言うのができないから。下りの周波数と上りの周波数が異なるため、伝播経路がまったく別物になってしまうのが最大の原因。
ではどうするのかと言うと、基地局から端末に飛ばした電波がどういう経路を通っているっぽいかを端末にレポートしてもらいます。端末はこれを各アンテナごとに逐一レポートし、基地局はそれにあわせて各アンテナからの発射特性を変化させていきます。下りの電波の経路を直接レポートしてもらうので、確かに正しい経路推定ができます。
実は、このアンテナポートごとの経路推定情報のフィードバック、元々はMIMOの効率を向上させる為に導入されたもの。しかし、この情報を使って基地局側の全アンテナから同じデータを送れば、ビームフォーミングをしちゃうこともできる、と言う副産物的なものだったりします。
この情報ってそんなに大きなものじゃないし、最近は特に周波数帯域が広がって情報量に余裕が出てきたので、こういった情報を気軽にフィードバックできるようになって来ているように思います。私の知る限りXGPってこういうタイプのフィードバックは無い様で、それは上りが先のTDDと言う構成上の利点から必要としないということはわかるのですが、しかしこういったフィードバックをするという思想自体がほとんどないっぽいので、いろいろと不都合が出てくる可能性も無きにしもあらず(特にOFDMAでは)。
と言う感じで、ビームフォーミングは、もはやTDDのお家芸にあらず、と言うのが現実ですが、やはり電波を直接測定してのパーフェクトビームフォーミングとフィードバック情報を見ながら徐々に調整、ってのでは効率が段違いです。空間多重による容量増加効果を狙うなら、やはりTDDを念頭に置いたほうが良いですよ、と言うなんだか分からないですが以上を今日の一言とさせていただきます。
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2010/07/01
ウィルコムのUID発出について、その仕組みと、一般サイトへの通知がなぜできないのか、と言うご質問をいただきました。今日はそんなお話。
UID、と言うのは、端的に言えば、利用者の識別ができるIDのこと。今アクセスしている人が一体どこの誰なのか、と言うことを何らかの方法で被アクセス者に教えることで、利用者別の処理を行う、と言うことが目的。
一番簡単なのは、月額課金制のサイトで、今アクセスしている人が加入してお金を払っているかどうかを識別する、と言うことに用いられます。またもう少し踏み込めば、利用者ごとのページの表示の設定をサーバ側に保存しておいて何度アクセスしても同じ人なら同じ画面が見られるように、と言う用途にも使えます。
そして何より有効に使われている用途は、おそらくオンラインゲーム。ゲームで遊ぶたびにIDとパスワードを入力するというのはその用途が所詮遊びのゲーム(失礼)と言うことを考えると煩雑に過ぎますから、ログインをUIDで代わりとする、と言うことはほとんどのオンラインゲームが採用している方式だと思います。
このような用途に使えるのは、ひとえに、UIDが唯一無二で偽装不可能である、と言う性質から来ているもの。その偽装不可能性を保証しているのは、言わずもがな、携帯キャリアです。余談になりますが、この仕組みは正真正銘日本発。日本のケータイを「ガラパゴス」と言わしめた、その基礎技術です。回線加入者とコンテンツ利用者をキャリアが仲立ちして結びつける、と言うこの仕組み、国内某所ではガラパゴスの温床といわれ評判は悪いようですが、世界的にはむしろ最近になってこの仕組み(キャリアが回線とコンテンツを縛る)が主流となりつつあり、標準化も進んでいるようです。
このようなものなので、このUID発出については、ケータイキャリアの公式網のゲートウェイにその仕組みが仕掛けられています。ケータイキャリアの公式網は基本的に「プライベートネットワーク」で、そこからインターネットに抜けるためには「ゲートウェイ」を通らなければならないようになっています。このゲートウェイがHTTPプロキシ的役割をし、その際にHTTPヘッダなりリクエストURIなりにUIDを仕掛けます。
たとえばiアプリが基本的にHTTPベースの通信しかできないのも、実はこのゲートウェイがHTTPしか通さないようになっているから、と言う理由もあります(最近は抜け道があるのかな?)。逆に言えば、HTTPリクエストはすべてゲートウェイがチェックし、有用な情報を付与できる仕組みになっているとも言えます。
もちろん、i-mode.ne.jp以外のアクセスポイントに接続すれば、ゲートウェイに阻まれたプライベートネットワークではなく、パブリックネットワークに直接接続することもできます。もちろんその場合はiモードの定額料金とは別になってしまうわけですが。
閑話休題。この仕組み、auもSBMも基本的に同じです。なので、各社とも、UIDを一律に付与できます。では、ウィルコムにこれができないのはなぜなのか?という疑問が出てきます。ウィルコムも同じように公式コンテンツをそろえ課金管理もできる仕組みがある、と言うことは、同じようにキャリアが加入者を保証する形でUIDを提供しているはずだからです。
その答えは、各社のコンテンツプロバイダ向けの説明ページなどをよーく見れば見えてきます。ヒントはIPアドレス。
比べてみると、コンテンツプロバイダ向けのIPアドレスの数、ウィルコムだけ異常に、いや本当に、異常に多いんですね。これはどういうことか。こういうことです。「ウィルコムの公式網はプライベートネットワークじゃない」。
ウィルコムだけ、最初から、コンテンツ対応端末にグローバルなIPアドレスを与えています。つまり、グローバル網に接続させています。端末は本当に自由にインターネットにアクセスできます。てことは、少なくとも「コンテンツゲートウェイを経由する必要が無い」と言うことです。
で、必要が無い、だけでなく、実際に、インターネットへのアクセスはゲートウェイを経由していません。インターネットからも直接IPアドレスで端末にアクセスできます。その上で、「公式コンテンツサーバ」向けの通信だけを捻じ曲げてコンテンツゲートウェイ経由にしてしまう、と言う方法をとっているようです。捻じ曲げるトリックはむにゃむにゃげふんごふん。
で、ウィルコムのUIDはこの公式コンテンツサーバ向けコンテンツゲートウェイで足したり引いたりしているようです。つまり、一般の「公式じゃないサイト」に対しては、UIDを発行できない仕組みなんですね。その代わり、原則的にはどんな通信も端末が対応していれば自由にできる、と言う仕組みでもあります。
この仕組みの利点は、ウィルコムがスマートフォンをいち早くリリースできたことにつながります。スマートフォンはどんな相手にどんなプロトコルで通信するかわかりません。なので、iモード式のプライベート&ゲートウェイ方式では利用に強い制限がかかってしまいます。このため、スマートフォン専用の公式網を作る必要がありましたが、ウィルコムはその必要がありませんでした。なおかつ、特定サイトへの通信を公式向けに捻じ曲げる仕組みもあるので、スマートフォン向けに公式コンテンツを平行して提供することさえできました。
こういう状況なので、簡単に「全サイト向けにUID発行を」と言うのは、難しいだろうなぁ、と想像します。たとえば、従来通信に影響を与えないようにHTTPだけを捻じ曲げる、と言う仕組みに置き換えると考えると、それは全通信パケットの上位プロトコルの覗き見をどこかでやらなきゃならないということなので、並大抵の装置では手が出ないでしょう。
で、最後に、ご提案。拝啓ウィルコム様。「準公式サイト」。ウィルコムに申請して、「UIDを発行してもらうだけの公式サイト」として法人・個人が登録できる仕組みを作る。これなら関係ないトラフィックがゲートウェイを流れることもないし、申請を電子申請で簡単にできるようにすれば勝手サイトでのUID対応も進むし。問題が起こっても申請者の身元もわかるので対応もしやすいし。営業的対応がOKならこれで十分気がします。
と言ったところで、本日はウィルコムのUIDに関してでした。でわ〜。
なんかこの記事を書いたら、「UIDが偽装不能」と言うところに反応した方から多くの反応が。そりゃそうです、UIDなんてHTTPヘッダかURIかに埋め込まれているだけなので、いくらでも偽装は可能です。
ポイントは、それでも「偽装不能性」があるからなんです。なぜ各キャリアがわざわざIPアドレスを公開しているのか、その答えは、つまり「このIPアドレスからのアクセスはキャリアがUIDを偽装していないことを保証しますよ」と言う意味なんです。キャリアのゲートウェイを通さない通信でUIDが偽装できたからといって鬼の首を獲ったかのように「UIDで認証できるなんて大嘘だ!」と騒ぐのは、いくらなんでも筋が悪い。要するに頭が○○い。キャリアは、そのIPアドレスから発出するリクエストは全てキャリアのプライベート網を通ったことを保証し、そのプライベート網には偽装可能な端末は絶対にアクセスできないことを保証します。ここまでセットで考えないと、UIDはそれこそ全く無意味です。IPアドレスは、プロバイダやIXがその経路を何重にも保障するため、これ自体の偽装不可能性は実はきわめて高いんです。それとセットだからこそUIDによる個人認証が威力を発揮します。PAPアクセスは「ユーザ名」と「パスワード」のセットが必要なように、UID認証には「IPアドレス」と「UID」が必ずセットで必要になります。その片方の認証を忘れたバカなコンテンツ屋も確かにたくさんいることはいるんですが、そういうアホは当然ほっときましょう。自業自得ですから。
とはいえ、ソフトバンクのやらかした事件が、このセキュリティを幻想にしてしまっています。ソフトバンクは、自社プライベートに偽装不能性が保証されていない端末を招き入れるという大変なミスをやらかし、しかもまだそのまま放置しているようです(このニュースを初めて聞いたとき、本気でひっくり返るほどびっくりしました)。ドコモもauも、もちろんウィルコムも、ありとあらゆる方法で、UIDが偽装可能な端末がプライベート網に入ってこないように二重三重の防護壁を張り巡らせています。ドコモとウィルコムの方式は結構具体的に知っていますが、私はアレを絶対に破れないと思います。仕事上得た知識と人脈の全てをつぎ込んでも。多分auも同レベルです。コンテンツプロバイダ保護はそれほど重要なんです。でもソフトバンクは一重の保護さえもなかったみたい。さすが自社で技術を持たないことが強みのキャリア。こういうUIDに関する勘違い君が台頭する最大の原因はまさにソフトバンクのお粗末な保護体制にあるわけです。
まぁそれでも、ARPポイゾニングなどの手法でIPアドレスの神聖を破る方法はあります。そこまでやったら、さすがにお手上げといわざるを得ません。まぁそれでも、ARPポイゾニングなんぞを食らわされるほどセキュリティに隙のあるコンテンツプロバイダなんてそれこそほっとけという感じなんですけど。
もうちょっとだけ追記。「標準化が進んでる」ってどういう感じ?というご質問があったので。具体的には、今、日本のキャリアがやっているような「全てのトラフィックを監視して」なんていう力技ではなく、特定のアクセスについてキャリアの用意するAPIに「これ誰?」とたずね、セキュアな加入者の情報を引っ張り出す、と言う感じです。考えてみりゃこれが一番らくですわな、お互い。とはいえ、キャリアがアクセス利用者とコンテンツ利用者の身元を結びつけ保証するという発想はそのまんまです。
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2010/06/21
W-SIMの小型化は可能か?と言う趣旨のご質問をいただきました。
もちろん、当然の話として、ユーザ(エンドユーザはもちろん対応機器メーカも)としては、W-SIMをはじめとする無線モジュールは、小さいほうが良いに決まっています。実装面積が小さくて済めば機器そのものを小さくすることができますから。
そして、W-SIMがリリースされた当初は「こんなに小さいのに民生無線機として独立して完全に動作できるとは!」と世間を驚かせたものですが、そこからさらに技術は進み、いまやmicroSDサイズの無線LANカードがリリースされる時代になっています。
2.4GHzで10mWクラスの無線機がmicroSDに収まっているんだから、同じ10mWで周波数も25%しか違わないPHSも同じ大きさにできてしかるべき、と考えるのが当然です。実際、必要とされる処理性能的な部分で考えれば、広帯域のOFDM処理が必要な無線LANよりもPHSのほうがシンプルで小さくできそうな気もしてきます。
さてでは、無線機を考える上で、何が一番大きさを制限しているものなのでしょうか。この辺から考えてみると答えが出てきそうです。
まず、デジタル処理部品に関してですが、デジタル処理に関しては、いまや方式や周波数では大きさに差が出ない時代です。ありえないほど小さな処理チップでありえないほど強力な処理能力を持ったものがたくさん出てきています。処理チップの能力を必要とする無線機特性は「ベースバンド帯域」と言われ、これは単純に言えば「通信のビットレート」に相当します。
無線LANの場合、11gで54Mbps、11n等で100とか300とか出るわけですよね。つまり、11g対応品と言えば少なくともベースバンド帯域は「54Mbps以上」なわけです。一方、PHSは、通常で384kbps、W-OAM TypeGとしても2304kbpsです。この時点で24倍もBBが高速な無線LAN、と言う言い方ができてしまうわけですが、しかし、最近のデジタル回路技術を以ってすれば、これは大した差ではなくなってきています。24分の1のBB帯域で済んでるからチップも24分の1になるかと言うとぜんぜんそんなことは無くて、おそらくこれによる小型化の恩恵はほぼゼロ。
一方、PHSは無線LANと比べれば恐ろしくローカルな規格、たとえばプロトコルのロジックをハード実装にするみたいなモチベーションはほとんど働きません。一方、無線LANは世界的に同じ規格でしのぎを削りあっていますから、こういった小型化の工夫がさまざまに試行錯誤されています。つまり、無線LANのほうがグローバルと言う面で小型化に有利と言えます。ただし、これはPHSが小型化をできないと言う理由にはならないですね(誰か1社が心中覚悟で開発すればいいだけですから)。と言うことで、デジタル部品にはおそらく差は出ないはず。
では残るはアナログ部品。そして、無線機を作るという視点では、このアナログ部品こそがあらゆる制限の根拠になっているといっても差し支えないでしょう。
アナログ部品、特に代表的な部品は、アンプ、フィルタ、アンテナの三つです。実はこれらの部品は、大きさが品質に直結するというちょっと困った特徴があります。もちろん技術革新は続いていて、同じ大きさでも徐々に品質はアップしていますが、「品質に妥協できないもの」と「品質に妥協できるもの」を比べてしまうとあきれるほどの差が出てしまうのが現実です。
と書くと既に答えを想像できていると思いますが、無線LANは比較的品質に妥協できるもの、PHSはできないもの、です。無線LANは2.4GHzと言う「何でもアリ帯域」を使う関係上、その帯域外への放射などは厳しく制限されていますが、その帯域内にある限りにおいては、不要輻射とか歪みとかはかなり制限が緩くなっています。なので、わりかし「安い部材」あるいは「小さい部材」で済んでしまう、と言うことになります。
一方のPHSは、これは電波法の範疇でかなり厳しく隣接漏洩電力とか感度規定とかが定められていて、これは無線LANの比ではありません。この厳しい基準を満たすためには、やはりどうしてもある程度以上の大きさのアンプやフィルタやアンテナが必要になってしまいます。前にもちょっと書きましたが、TypeG W-SIMがなかなか出せなかったのはおそらく高度な線形性が必要になるQAM系変調で歪み無く増幅を行うためのアンプがあの大きさに入らなくて困ってたんだろう、と言う話も、基本は「電波法で定められている程度に高品質にやる」と言う前提なわけで、ゆがんでも漏れてもぜんぜんオッケー、なら、あの程度の大きさはすぐに作れちゃうと思うんです。
と言うことを考えると、要するに、W-SIMを小型化する、と言うのは一朝一夕では難しそうです。地道にアナログ部材の高性能化を続け、ゆっくりと実装サイズを小さくしていって、ある日新規格サイズをリリース、みたいな形ですかね。まぁその努力ができるなら、GSM-W-SIMのSIMを直接取り付け可能とする形を頑張ってほしいのがホンネ。または、W-SIMとSIMの両インターフェースを統合してW-SIM新インターフェースに・・・なんてのは話がそれましたが、まぁ今のところは小型化は当分難しいだろうなぁ、と言う個人的感覚。
と言うことで本日はW-SIMは小さくできるかの一言でした。
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2010/06/15
TD-LTEとLTEはどの程度違うものなのでしょうか、と言うようなご質問をいただきましたので本日はそんなお話。
結論から言いますと、物理的なスロット構成以外はまったく同じものです。
良く言われることに、「TD-LTEは中国が独自で開発しているものを無理やり国際標準にしているだけだ」と言うような説があるわけですが、これはまったくの間違い。正確に言うと、LTEと言う大きなシステムアーキテクチャの中に、FDDタイプアクセス、TDDタイプアクセスの二種類がある、と言う状況に過ぎません。
実際にLTEの標準仕様の中では、TDDとFDDはまったく同じものとして扱われています。TDDとFDDで区別しなければならない部分、たとえば「物理フォーマット」とか「リソース指定メッセージの内容」などといった部分だけは、「〜〜ちなみにFDDの場合は〜〜〜TDDの場合は〜〜〜」と書き分けられている程度。LTEシステム全体から見ればTDDとFDDの違いは1%に満たないレベルです。
ものすごくぶっちゃけちゃうと、FD-LTEシステムを導入したキャリアが、あるセルだけTDDに変えようと思ったら簡単に変えられます。集中管理方式のGSM/WCDMAとは違い、無線リソース管理機能をすべて基地局に分散化したため、ネットワーク側には各セルがFDDかTDDかの影響が及ばないようにできているわけです。
このため、各キャリアは、FDDとTDDを自由自在に使えるようになっています。FDDでずっとサービスをしていて、ある日、TDDの周波数を割り当ててもらえることになったら、従前のLTEネットワークにTDD対応基地局を追加で打つだけで正常に機能するようになります。もちろんこれはシステム全体像を見たら、の話で、たとえばTDD基地局同士の同期をどう取るか、と言う実装の話になるとまた別の管理ノードが必要になったりはするわけですが。
そして、今、このTDDを求めているのは、実は中国よりもヨーロッパ。確かに中国は無計画な無線割当で帯域が細切れになりうまくペアバンドが取れず仕方なくTDDばっかり、と言う状況になっているので、TDDを強く欲しているのですが、ヨーロッパは、国家間の割当の不整合のために「共通のペアバンド」が取れず、やはりTDDを強く望む声が大きくなってきています。
また、チップベンダにも大きな動きがあります。上に書いたとおり、物理的な構成以外はFD-LTEとTD-LTEはまったく同じもの。同じプロトコルスタックが使えます。となると、チップベンダとしては、市場を広げるために「TDD/FDDデュアル」にしたほうが効率が良く、ほとんどのグローバルチップがデュアル対応となると見込まれています。
なんと言っても、既に中国ではTDD導入確定ですから、3億の市場が確定していて、これがまだまだ増え続けています。加えてヨーロッパでTDDを採用する動きが強くなってきているため、ヨーロッパ市場5億も視野に入ります。もちろん世界各地で空き地周波数の再利用議論が起これば、TDD市場はさらに膨らみます。
このようなわけで、おそらくほとんどのチップベンダがFDD/TDDデュアルチップを作ることになるでしょうし、ほとんどの移動機ベンダがデュアルチップを採用する流れになるはずです。なんと言ってもTDDは移動機を作るのが楽です。FDD移動機を作る上で最大のハードルであるデュプレクサの代わりに「時間」と言う最強の壁が用意されているため、自己干渉による性能劣化を考える必要がありません。
FDDとTDDがまったく別の規格として乱立していた3.5Gまでとは、ビジネスがまったく変わってしまうと思われます。ほとんどの移動機がデュアルとなるなら、キャリアとしても、既にFDDでサービスをしていてもTDD周波数を積極的にとりに行くモチベーションが生じてきます。同一インフラでFDDアクセスとTDDアクセスそれぞれの特長を生かしながら混在運用するなんていうキャリアもそのうちに出てくるでしょう。
と言うように、かなり早い時期からFDDとTDDの統一が行われていたのがLTE。それは、TDD運用実績が増えるにつれTDDの欠点が克服され、利点が大きく評価されるようになってきた結果であるとも言えます。それには当然ウィルコムのPHSによる変態的技術実験もかなり大きな役割を果たしているはずで、今後もTDDの変態実験をリードしてもらいたいですね(笑)。と行ったところで本日はこれにて。
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