メトカーフの法則から見るウィルコムの戦略考
2008/02/15 21:21さて、ITに絡む、いろんな法則、経験則というものが、いろんな人から提案されています。その中でも特に有名なものは、結構それが正しいことが経験的に知られていて、投資活動や料金設定などで参考にされることが多いようです。
例えば、一番有名な経験則と言えば、コンピュータの処理能力は1.5年毎に倍になる、と言うムーアの法則。これは確かに今日まで変わらず正しくあったことが知られています。ただ、ムーアの法則に限っては、あまりに有名になりすぎたためにそれ自体が開発目標となり、法則自身が法則を成り立たせる強い力を持ってしまった珍しい例です。
そんな中に、「メトカーフの法則」というものがあります。この法則自体の正しさについては、絶対的な評価指標が少ないためになかなか検証しにくいようですが、他の経済法則などからそれがおおむね正しいことは、やはり広く知られている法則です。
そのメトカーフの法則とは一体どういうものなのか、と言うと、一言で言うなれば、「ネットワークの価値は加入者数の二乗に比例する」というもの。元々は、イーサネットなどの小規模なネットワークに参加するノード数に関する法則でしたが、今では、加入者電話網などの大規模なネットワークでもこれが成り立つであろうことはいろいろな研究者が指摘しています。
これが何を意味しているか。例えば、加入者数が1割増えれば、ネットワークの価値は2割強増える、と言うことです。それではネットワークの価値とは何でしょうか。
これは、客観的に見た、ネットワーク=キャリアの魅力です。例えば、ウィルコム定額プランのあるウィルコムについては、同じウィルコム加入者同士なら通話は無料。だから、ウィルコム加入者が多ければ多いほど、ウィルコム自体の魅力は増えることになります。その魅力の増え方が、単に加入者数に比例するのではなく、加入者数の二乗に比例する、とメトカーフの法則は言っているのです。
そしてそれ以外にも、この加入者数の二乗に比例する「価値」は様々あります。例えば、iモードなどの対応サイト。このサイトの数が、おそらく各社の加入者数の二乗に比例する位の差が出ているのではないでしょうか。ドコモ加入者は5000万、対するウィルコム加入者は500万に足りません。加入者数では10倍以上の差ですが、おそらく対応サイト数は100倍以上の差があるはずです。これは、対応するサイト(企業)側が、ドコモ、ウィルコムの加入者数を考慮した対応効果とそれに対応するコストを天秤にかけた結果、自然とこのような差が生まれてきているわけです。
また、世の中の様々なマーケター達は、意識的にも無意識的にもこのメトカーフの法則をかなり重要視しています。例えば、コンビニに並ぶ、携帯電話用ポータブル充電器。ウィルコムが破竹の勢いで毎月加入者を増やしていた時期には、ほとんどのコンビニにウィルコム対応製品が並びました。ところが、昨年初め頃からウィルコムの加入者増が鈍ってくると、とたんにコンビニ店頭からこれらの製品が消えていきます。市場の人々は、加入者の増減比率に非常に敏感に反応しているんです。これは、メトカーフの法則に似た何らかの判断基準が働いていることを示しています。
そして、ソフトバンクの孫先生は、この法則を非常に良く理解している人の一人です。赤字だろうが何だろうがとにかく加入者を増やす。それがネットワークの価値を高める、と言うことを理解しているのですね。なんだかんだで実際は高くついちゃうみたいなあやしげなところは感心したものではありませんが、それでも、採算度外視してでもまずは圧倒的な加入者数増を果たす、というのは、メトカーフの法則に照らしても非常に理にかなっていると言えます。
一方、この法則を理解していないキャリアが一つ。それがウィルコムです。目先の損益計算書にとらわれて思い切った加入者増の施策をとれません。会社の価値を保つには、確かに正しいやり方でしょう。でも、ネットワークの価値は、それでは上がりません。他社にどんどん差を付けられてしまいます。しかも、二乗に比例するスピードで。気がつけば、無価値なネットワークとして大多数にそっぽを向かれ、解約だけがひたすら進んで消え去る運命です。
今ウィルコムが市場にどのような評価をされているかと言えば、「端末の数が少なく魅力もない」「コンテンツが少なくて使えない」「無料通話の相手がいなくて意味がない」・・・これらは全て、加入者数が少ないことに端を発しています。だから、ウィルコムは今は、採算を度外視してでも加入者増を目指すべきだと、私は思うのです。メトカーフの法則に照らしてもそうである、と、強く主張させていただくわけです。
少なくとも500〜600万。おそらくその辺に閾値があって、そこからは自動的に正のフィードバックがかかり、黙っていても加入者もコンテンツも増え、ARPUも増加していく、と言うラインに乗れると思うんですよね。だから今は無理をしてでもそのくらいを目指すべき時期じゃないかなぁ、と思ったりします。
ついでに言えば、次世代PHSに過度の期待をするのも間違っていると思います。韓国でWiBroが惨憺たる大失敗(開始一年後200万加入を見込んだネットワークが10万加入止まり)をさらしてしまったわけですから、「モバイルで速い」というだけではほとんど価値が無い、と言うことはもはや実証されてしまっているわけです。やはり、何より「加入者数による自律的価値向上」が重要だと言えるわけで。
と言うことで、次世代PHSのスタートダッシュに向けても、ウィルコムさんにはこの辺で思い切った施策をとってもらい、加入者を一気に増やしていただきたいところです。と言ったところで本日はこれにて。
2008/02/16 at 0:55:40
ITMediaの神尾・小寺対談だけじゃなく、ふぇちゅいん氏や暇?人氏まで『収益が赤字になってでも加入数増やせ!』と言い出すとは、非常に残念です。
今の(少なくても今年度の)ウィルコムは何をしてでも『収益を赤字にはできない』状態です。
ウィルコムが今抱えている有利子負債の中には財務制限条項がついているタームローン契約があり、それに『平成19年3月期以降の各年度末決算で、単体決算・連結決算共に営業損益・経常損益・当期損益の各項目に損失を2期連続で計上してはならない』という主旨の条項が存在します。
そして19年3月期では経常損益・当期損益を計上していますので、今年度末は『何としてでも黒字で終わらせないといけない』というのが今のウィルコムの状況です。
(期末毎に債権者向けに発行してる有価証券報告書に記述があります)
もし今年度末も赤字計上となれば、金融機関から即時に約1400億近くの借入金の返還を要求されて次世代PHSどころの騒ぎじゃないっていう事態に陥ることになります。
もちろん今期を何とか乗り切れば、少なくても次期は赤字になってもOKなのでまた積極的な方策を打ってくると………信じたいですが(苦笑)
とにかく、今現在(特にSBMと比べて)加入数獲得に消極的に見えるのは、少なくてもカーライルのEXITのためではないのでは?と反論させていただきます。
2008/02/16 at 9:47:49
これって何気に重大な事実のような。
そう考えるとウィルコムの最近の動きがすべて納得いきますね。
2008/02/16 at 10:19:28
2/16から「スマートフォンキャンペーン」だそうで、2900円キャッシュバックとか。
スマートフォンのような特定層にしか売れない端末をメインに据えざるをえないのも、ウィルコムの戦略ミスでしょうか。キャンペーンそのものも泥縄の感は否めないし。
さて、ウィルコム定額プランはいいプランだと思いますが、それ以外の音声・データ料金体系を放置しているうちに「パッと見て、高い」と感じる料金になってしまいました。
音声料金では待ち受けメイン用の1000円以下のプラン、通話はほとんどしない&フルブラウザは多用する人向けの上限4000円程度のプラン、他社通話が多い人向けの無料通話付プラン、さらにデータ端末向け料金は抜本改正等、もう少し考えて欲しいところ。財務面ですぐに導入できない、というなら「4月から導入します。現在変更予約受付中です」でもイイのでは?(店頭説明が大混乱するか?)
とにかく、暇?人さんにすらそう見えるような「やる気がないように見える」状態は最悪。打つ手が限られていても「ウィルコムはやる気です」と見えるようにして欲しい。
2008/02/16 at 16:12:46
>PHS-JUNKIEさん
そんなぁ〜、ウィルコムみたいな成長途上の会社にそんな厳しい条項の負債なんて〜・・・うわぁぁ!本当だ!
今年度やたらと守り経営なのは、これが原因なんですね。なるほど。
ただ、EXITに関しては、加入者は増加基調にあることが重要だと聞いたことがあります。あくまで業界のうわさではありますが、上場は東証を目指していて、東証としては久々の大型案件なのでとにかく「勢いのあるところを見せてくれないと困る」ということを条件にしている、というような話です。
負債の財務制限条項とカーライルのEXIT対策・・・板ばさみで苦しい立場みたいですね。
2008/02/16 at 17:09:08
> 少なくとも500〜600万。おそらくその辺に閾値があって、
ウィルコム発足時、加入者数の目標が600万位だとの話があったので、その程度は必要と認識していた方はいましたね。残念ながらもう過去の人ですけど。
> 財務制限条項
ソフトバンク・モバイル買収時の借金にも、似たような条件があると認識しているのですが。
まあ、あちらは加入者を増やし続けなければ経営権が剥奪されるので、置かれた条件が違うとはいえますが。
そういえば、W-VALUE導入後って端末購入時の顧客債権の扱いってどうなっているのでしょうかね?
ソフトバング・モバイルみたいに簿外に追い出しているのであれば、財務条件のハードルは低くなると思うのですが、どうかしら?
2008/02/16 at 19:40:20
>暇?人氏
自分はその”噂”がある、っていう記事しか読んだことがないので、正直わかりませんが。
カーライルは普段4〜5年でEXITするのを目標にしているという話を媒体で見聞きするので、そこから来てるのかなぁというのが個人的妄想です。
ただ、『(カーライルのEXITとして)IPOする』ってのは、正直自分は賛同しかねる、というか、その噂信じられねぇ〜ってのが自分の考えです。
次世代PHSが次なるウィルコムの成長のエンジンだとしたら、未だ立上げ中で成功するかどうか分らないという状況である今よりも、ある程度立上がりが成功した将来の時点の方がよりリターンが高いと思うはずで、そうカーライルが考えて数年居残る、と勝手に思い込んでたりします(苦笑)
第一、今IPOするには非常に市場環境が悪すぎます。市場の平均株価は昨年末からずっとだだ下がりですし、今年中に日米はじめ世界全体で景気後退する可能性も高い、と明るい話も無いですし。
特に一番怖いのはBWA免許を当て込んで”あの人たち”が敵対的買収を仕掛けてくる可能性が無いとも限らないですし。(財政火の車ですからあり得ないとも思いますけど……そのうち一人は同業他社にちょっかいかけてますしねぇ…)
その点で(特にウィルコムの資本政策が米国寄りだとしたら)IPOが企業として決して最善の方策だと判断してない可能性もあります。
それに今日本は世界中で非常に金利の低い国ですから、市場から資金を調達するためにIPOするよりも社債発行した方がお得、と考える人も多いです。
まあEXITする、ということだけでしたら、わざわざIPOしないで別の人に売っちゃうっていう手もありますしね。
そのへん、カーライルの中の人がどう考えてるか、直接聞いてみたいところです。
>けむ氏
SBMにも財務制限条項をもった負債(WBSローン?)がありますね。今でも”財務制限条項”でググるとかなり先頭にその時のすっぱ抜き記事が出てきます(笑)
今改めて見ると、契約数の最低ラインもかなり緩いものでしたね。(SBMの発表が正しいなら)そろそろ契約数は最終地点に到達しそうですし。
但しSBMは今年あたりからその条件が厳しくなってくるはずです。未だソフトバンクのフリーキャッシュフローは真っ赤だけど…ほんとに大丈夫なんですかね?
すでにF&Fの方はじめ多くの方が指摘してますが、ネットワーク機能が低下してきている一方で設備投資はかなりケチってきてるとか、ソフトバンクの発表と総務省で基地局数の数が違いすぎるとかって話題でもちきりです。
SBMは『安い設備投資でネットワークを拡充する』という問題の切り札としてフェムトセルに期待してるみたいです…………から、総務省が今募集してるパブコメで嫌がらせしてやりましょう。MVNOでSBMがやってるように(笑)
『W-VALUE導入後って端末購入時の顧客債権』ってどうなってるんでしょうね?(爆)すみません自分も決算報告書の読み方を最近勉強し始めたので。
より精進いたしますです、はい。
2008/02/20 at 3:56:43
メトカーフの法則とエスペラント運動…
やや旧聞に属しますが、巡回先のウェブログ「AIR-internet-EDGE」にて、「メトカーフの法則から見るウィルコムの戦略考」という、とても興味深い記事を拝見しまし (more…)