リンクバジェットという数字
2010/02/01 21:31無線通信、というかその他の有線通信でもよく使われる言葉に「リンクバジェット」というのがあります。今回はこの話。
リンクバジェットを一言で言ってしまうと、「通信の送信者と受信者の間にどれだけ『つなぐパワー』があるかを単純比較できる指標」です。つなぐパワーはそのままつなげられる距離に直結するので、ある技術とサービスがどのくらいのエリアで使えるのかを見積もることも出来ます。
たとえば、PHSで基地局送信がピーク2Wで送信利得16dBi、端末は受信利得0dBi、周波数は1.9Gで、というのと、WCDMAで送信ピーク20Wで利得20dBi、受信利得は0dB、周波数は2Gで、といわれて、単純にどちらがより遠くまでつながるかを比較するのは難しいですよね。何しろ、根本の方式が違うので、単純比較できないのです。
ここでリンクバジェットという指標を持ってきます。このリンクバジェットでは、方式や技術が持っている「つなげるためのパワー」をすべて「dB」に換算してしまいます。あとは簡単。全部足し算しちゃう。
WCDMAとかは拡散利得とか隣接セル干渉許容量とかいろいろとめんどくさいことがあるので式は非常に複雑になるのですが(興味ある方はこのへんをご覧ください)、そこさえクリアしてしまえば、PHSとまったく同じ単位で比較可能になります。たとえばWCDMA送信20Wではリンクバジェットは150dB、PHSで2Wではリンクバジェットは130dB、なんて結果が出れば、WCDMAは大体3kmほど飛ぶし、PHSは1kmかそこらかな、と単純に比較できちゃうわけです。
とそこに技術を付けたり取ったりするのは簡単。たとえば、違う周波数にまったく同じデータを送り、受信側で二つのデータを合成して誤りを減らす、という技術があるとすると、単純に二倍した分の利得(3dB)と周波数を変えていることによるわずかな利得を足して大体4dBくらいの利得が取れる、なんていわれます。すると、リンクバジェットに4dBを足せばよいことになります。
逆に、従来QPSKで通信していたのを、速度を向上させたいので16QAMにしました、となると、信号の強度は16QAMはQPSKの約半分ですから、単純にその分の利得、3dB分のリンクバジェットを失う、と考えます。
つまり、最初のベースのリンクバジェットが得られれば、そこにいろんな技術を足したり引いたりしたときのエリア半径を見積もるのにちょうどいい指標ということも出来ます。
もっとすごいのは、たとえば、本当にデータの上だけの話として、パケットにエラーがあった場合に再送する、というプロトコルを定義したとしても、これを理論計算やシミュレーションでリンクバジェットに換算出来ちゃう、ということ。再送プロトコルがある分、データ自体に強度があるから、無線区間はもう少しだけエラーが多くなってもかまわない、という風に強引に換算しちゃう。
いや、実際の無線回路設計のときにはこんなの考慮に入れちゃダメですよ(>本職の方)。でも、もう少し大雑把に、無線方式とかサービスとかに対して「これってどのくらい実用エリアを広げられそうかな?(限定されちゃいそうかな?)」ということを考えるとき、こういった再送方式とかも強引にリンクバジェットに換算しちゃうんです。
さっきみたいに、QPSKだったのを16QAMにしてスピードアップ、というのもそうですし、それにたとえば「変調クラスをチャンネル埋め込みにして高速変調すると」なんていう効果もdBに換算しちゃったり、さらにコーディング(エラーが起きてもデータ復元が一定確率で出来るように処理をすること)を入れることで速度は30%落ちるけど利得が5dBとれるぜ、とか言うことを同じ土俵で議論できるようになります。
最初にも書いたとおり、リンクバジェットの数字はほぼ直接的にサービスエリアに変換できますから、いろんな技術を応用したサービスがあった場合、サービスごとにリンクバジェットへの影響を算出さえ出来れば、そのサービスの提供エリアを直接見積もることもできるわけで、たとえばW-OAM TypeGとかだと、BPSKは+5dBほど、64QAMは-5dBほどなので、BPSKで半径1.7倍にエリアを広げられるし、64QAMは従来の0.56倍ほどのエリア内で利用可能、というように簡単に見積もることが出来ます(自由空間での無線の場合、半径への影響はリンクバジェットの半分)。
というような、広い意味でのリンクバジェットの数字を使うと、いろいろと便利なわけで、結構いろんなところでこういう使われ方をしているようです。今後、新しい技術が出てきたら、こういう「無理やり換算」をやってエリア見積もりとかを紹介してみたいと思います。でわ〜。