FDDとTDDを対立概念として考えるのはいくない
2010/07/28 09:00FDD対TDD、みたいな論調ってありますよね。どことは言わないけど、ちゃんとした(?)コンサルとか調査会社とかでも「世界を制覇するのは欧州生まれのFDD-LTEか、中国勢のTDD-LTEか」みたいな論調で次世代の通信方式を語っていることがあるくらいで。
前にもちょっと書きましたが、LTEに関して言えば、TDDとFDDは、まさにTDDかFDDかと言う点くらいしか違いがありません。通信システムで最も重要でソフトウェア分量の多い制御プロトコルやユーザデータプロトコルはほぼ共通です。最後の最後で、それをどのように時間・周波数上に配置するか、と言う点だけが違うものです。
また、単にTDDとFDD、一般の方式論で論じるにしても、この二つに関しては「どっちが勝つか」と言う問題にはなりえない、と私は思っています。たとえば同じTDDで「TD-LTEかWiMAXか」と言う議論は成り立ちますが、TDDとFDDは比べるべきものではなく、相補する存在だと思うわけです。
FDDは、ペアとなる十分に離れた周波数が二つ必要、また、移動機の自己干渉が大きく性能が出しにくい、と言う弱点はありますが、その代わりに、ガードタイムが不要でエリア的にもスループット的にも効率が高いと言う利点があります。一方のTDDはガードタイムによる効率低下や面展開をする為にはどうしても同期が必須となると言う難点があるものの自己干渉が無いため移動機が作りやすく周波数配置も自由自在と言う利点があります。
特にTDDの「自由な周波数配置」は重要な特徴で、これがあるからこそ中国はTDDをメインに据えています。しかし、この特徴がきちんと周波数が計画されてきた日本では活かせないかと言うと、そんなことはありません。すべての周波数帯域を漏れなくペアにできるかというと絶対にそんなことは無く、そもそもペアの必要の無い無線システムもあれば一人でがっぽりと帯域を食うシステムもあります。どうしても無線周波数には「切れ端」が残ってしまうものです。有名なところでは、アイピーモバイルとウィルコムなどが争奪戦を繰り広げてアイピーモバイルが獲得したけれども資本不足で断念した2GHz TDD帯などです。他のさまざまなシステムがひしめく1〜3GHz近辺はこういった切れ端がたくさんあります。
LTEや他の高速システムでは、もちろん20MHzと言った広大な帯域を豪奢に使ってスループットをたたき出すことをメインに据えてはいるものの、1MHzとか5MHzといった切れ端にも対応できる省スペース版も定義されています(これはOFDMの重要な利点といえるでしょうね)。TDDももちろんで、その最大スループットは3Mbpsとか10Mbpsとかになってはしまいますが、しかし実際のネットワークの混雑を考えれば、これだけの速度が出れば十分すぎる性能です。無線の負荷分散をするのにこれほど適したやり方はありません。
つまり、エリア全体はFDD方式のシステムでしっかりとカバーし、要所要所にTDD方式のシステムを入れて一定の条件で利用者をそちらに引き込んで負荷分散する。TDD向けの「独身バンド」はあちこちにとることができるようになるので、各事業者が十分な容量を持ってこういった相補的な使い方ができるようになるんですよね。そして、コアネットワークとプロトコルが共通のLTEはこういった展開に最も適した方式です。
この点、日本の事業者で一番筋がいいのは、実はソフトバンク。FDDシステムの事業者を買収し、次にTDDシステムの事業者を得て、それらをまとめてFDD-LTEとTDD-LTEに置き換えていくと見られています。インフラ構築ではなく出来合いシステムの買い付けで成長した会社だからこそ、こういった柔軟な考え方ができるのでしょう。公衆無線LANとの連携も含め、複数のシステムを相補的に使うという発想ができているのは、今のところソフトバンクだけだと思います。
一方、ドコモはこの点、硬直した考え方から抜け切れていない印象です。FDDといったらすべてFDDで、自力でカバーしなきゃならない、と思い込んでいる節があります。優秀なTDDシステムであるPHSを早々に捨て去ったことも、あまりセンスがないなぁ、と思わせる部分です。PHSを保有し続ければ、さまざまなTDD展開に関する知見が今でも得られ続けているはずだからです。サービスと言うよりもノウハウの問題として。KDDIもどちらかといえばドコモ寄り。FDDであるEV-DOとTDDのWiMAXのデュアルサービスは筋のいいサービスなんですが、実は「偶然そうなった」だけで、どちらのシステムも基本的には「独立独歩でがんばるぞ」と言う姿勢から脱却できておらず、相補的に考えているとは言いがたい状況です。
と言うことで今日は「TDDとFDDを対決視点で考えちゃダメ」の一言でしたー。
追記:コメントへの返答
> shuchanさん
確かに、TDDが主流になることで中国勢が幅を利かすようになるという面での議論は重要ですね。
しかし、現在、TDD、FDD関係なく、LTEの世界では既に中国勢が主流になってきています。Huawei、ZTE、CMCCと、CATTすなわち中国通信技術研究院ですね。この辺がEricsson、Nokia、Qualcommなど旧勢力を圧倒する勢いを持ってきています。TDDは8割、FDDも3割は中国勢からの要求や提案が反映された仕様になっている、と言うのが私の感覚。とはいえ、中国勢が中国に有利な提案ばかりをしているという印象は無く、技術的良心はむしろQualcommなどよりも高いと感じています。インフラ機器の販売台数シェアではHuawei一社で他社を既に圧倒しているという事実もあるので、もはやパワーゲームの時期は過ぎ、中国も含めた「世界協調」の時代に入っている、と私は思っています。
2010/07/28 at 9:59:59
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2010/07/28 at 12:22:42
雷がなったり、最近天気が悪いと思ったら・・
2010/07/28 at 19:22:49
システム的には確かにそうですよね。ただグローバルビジネスにおいて、TD-LTEをかつぐ中国勢がインフラ業界でこれから結構影響力を行使するんじゃないか、というパワーバランスの面に置き換えると、ある種の対立的な概念になるのだと思います。まあ「FDDvsTDD」というのは、素人向けの煽り的な表現ですね。
2010/07/29 at 11:55:24
有意義なご返答、ありがとうございます。
Ericsson、Nokia、Qualcommなどを、すでに「旧勢力」と表現されている点、鋭いですね。その意味では、確かにパワーゲームの時期は終わったといえますね。ただ、事実上欧州勢が仕切るGSMA等のなかで、本音として中国の台頭をどう見ているか、気になるところです。
これまで欧州勢の常套手段だったベンダーファイナンスも、ファーウェイなどを強力に育成しようとする中国政府系銀行によるファイナンスの前にあっては、すでに効力を失いつつあります。今後は、もうひとつの打ち手というか、儲け方であるフルターンキー方式もどうなることやらと思いながら、市場を眺めています。
おっしゃる通り、機器シェアでもファーウェイやZTEが他を圧倒してきました。そうした現実に対し、どうも日本のメディアやWebでは、まだその旧勢力が先頭を走っているかのような扱いが多いのが気になります。携帯端末における韓国勢の躍進はよく知られるところですが、インフラ系での標準化や販売シェアで、すでに中国は相当なプレゼンスを得ているのに、どうしてでしょうかね。旧勢力と比べて中国ベンダーはアピールの仕方やメディアコントロールが下手だなぁと思います。
いずれにしても、今後は「CDMA2000 vs.W-CDMA」の時のような構造はなくなるので(あの時も両論併記で「ハーモナイズ」などと表現されていましたけれど……)、世界協調の時代に入っているとの認識は、全くその通りだと思うのですが、その協調の輪の中に国内ベンダーが(ビジネスとして)どの程度滑り込めるかが、大変気になります。そのカギになるのが、中国勢との関係かなと思っています。端末もさることながら、インフラの方も何とか頑張ってもらわないといけませんよね。
いつも大変面白く拝見していますので、このあたりのテーマについて、何かの機会に取り上げていただければと思います。ありがとうございました。
2010/07/29 at 15:35:28
shuchanさん
記事で返信するとややこしくなるのでコメントで。
まったくおっしゃるとおりで、欧州勢はまだ何かにつけ理由をつけて中国勢を排除(?)しようというような動きをするところもあるようです(最近ではTeliasoneraのHuawei外しとか)。ということは、逆に言えば「旧勢力」本人たちは相当な危機感を持っている、と言うことでしょうね。中国勢に技術や力がついていても、この慣習の壁を破って協調の輪の一部となりうるのかというのは、大きなテーマかもしれません。あるいは力押しで押しつぶしてしまうのか、とか。今度じっくり考えてみたいと思います。
問題提起と貴重なご意見、ありがとうございます。
2010/07/30 at 2:30:47
アイピーモバイルが確保した物の手放さざるを得なかったTDD帯を
電波の切れ端というのはちょっと同意しかねます。
元々IMTバンドとして策定されている物で、
日本でもTDDのサービス事業者が居ると思われて確保されていたわけですから。